朝吹真理子「『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』書評」

8月12日の読売新聞書評欄に朝吹真理子による『怪奇・幻想・綺想文学集 種村季弘翻訳集成』(国書刊行会)の書評が掲載された。見出しは「条理の底が抜けた世界」。ウェブでも読める。

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20120817-OYT8T00997.htm

物語を装飾する言葉のすべてがいかがわしい。はじめはてんで嘘っぱちなこととして物語を愉しんでいたはずが、次第に怪奇的な存在よりも、寧ろ、人間の「想像する」行為自体の方が恐怖の根が深いことを知る。


私たちは条理を通して事象を理解しようとするが、私たちの意識の根っこは、条理など底ぬけの、深い闇のほうにあると思う。だからこそ、幻想や怪奇と呼ばれるものを読むと、みだりがましさに心惑わされ、条理からいっとき抜け出られた自由に安堵するのだ。


この「条理など底抜けの、深い闇」というのは、諏訪哲史の書評にあった「文学のタガを外す不発弾」という表現に通じていておもしろい。