松田哲夫「松田哲夫の愉快痛快人名録 ニッポン元気印時代」第12回 種村季弘さん(「週刊ポスト」2012年7月20・27日号)
東京都立大学の学生新聞への寄稿を依頼しに行って断られた初対面のエピソードから、没後刊行されたエッセイ集『雨の日はソファで散歩』まで、編集者からみた種村先生の横顔が描かれている。
種村さんとの電話は、「時によると一時間を優に越え、二時間に迫ることすらあるのだ。しかし、この人の長電話の迫力は、時間的な長さにあるのではない。中身の桁外れな博覧強記ぶりと話術の絶妙さにこそ真骨頂がある。仕事の打ち合わせを皮切りに、文壇の最新の事件に飛び、そこから日本文学の運命へと続き、記号論、ポスト構造主義、ユングなどをめぐって、米ソの世界戦略からテクノクラートの世界へと進み、はては文壇の大御所から今を時めく気鋭の学者まで、あたるを幸いバッタバッタと斬りまくるのである。
都立大全共闘が旧館をバリケード封鎖し、新館に依拠した民青と投石合戦を始めた時のことだ。種村さんは、はじっこの非常階段から、その様子を興味深げに眺めていた。当時、全共闘に共鳴もせず、かといって忌避もしないで、純粋な好奇心から事態を観察している教師は、彼ひとりしかいなかった。
この野次馬精神は、たとえば「幻想文学」4号(幻想文学会出版局、1983年)に掲載されたインタビュー「完全不在のスペクタクル・エッセイ」中でも、窓から見えるビルの屋上ではじまった喧嘩を見物するくだりなどでも見ることができる。ちなみに同インタビューは『幻想文学講義 「幻想文学」インタビュー集成』(国書刊行会、近刊)に収録予定。
そして、種村さんは、新しいものへの好奇心が旺盛で、とりわけ新しい才能の登場には敏感に反応した。椎名誠さん、野田秀樹さん、浅田彰さんなどは、いち早くブームがくることを予見していた。おかげさまで、ぼくは『逃走論』というベストセラーを出すことができたのだ。
人さし指を立ててにやりと笑う種村先生を描いた南伸坊のイラストもとてもいい。
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